3日経っても、1週間経っても面接を受けた食品商社から連絡はなかった。
A男は多分ダメだったのだろうという気持ちでいながらも、このまま
連絡なし=見送りとなることには納得がいかず、怒りすらも覚えていた。
「そもそも声をかけてきたのは、あっちじゃないか。それに主任の人だって評価してくれていたし。
ひょっとしたら入社の受け入れの準備に手間取っているだけかもしれないな。」
と、あれこれと考えながら仕事をしていた、面接を受けてからちょうど10日目に
取引先の出口でばったり最初に声をかけてくれた主任と出くわした。
主任は、バツの悪そうな顔をしながら、
「ゴメン、ゴメン、電話しようと思っていたんだけどさ。部長たちがA男さんは優秀で
見込みもあるけど、うちの社風に合わないって言い出してさ。もちろん俺は推したよ。
でも、部長が乗り気じゃないから社長も腰が重くてさ。ほら、今景気がこんなんだろ。
もう少し後でもお互いにとってベターじゃないかってさ…。」
A男はそれを聞くと、精一杯強がって面接の御礼を丁寧に伝え、今後も何かあれば
よろしくお願いしますと伝えると、無理矢理作った笑顔で、取引先をあとにした。
<1年後・・・>
A男は、総合商社の資本が入っている食品メーカーの営業マンとして、日々上司に
厳しい指摘を受けながらも、充実した日々を過ごしていた。
ときどき、ふと1年前の部長との面接を思い出すことがある。
あの最後の面接では、部長たちを目の前に日々数字を意識して営業活動をしていることを
アピールできなかった。
もっといえば、実は会社の売上や自分の営業手法、そして会社への貢献度などについて
全くといっていいほど考えていなかった。ただガムシャラにやっていたらたまたま結果がついてきただけだった。
あの面接以来、A男は会社・部署・自分の売上がどうつながっていているかを日々考えながら
行動するようになっていた。
また、これまでの動きをゼロベースから洗い出し、無駄な動きはないか、もっと効果的な
営業活動はないか、周囲にもアドバイスを求めたり、自ら積極的に発言するようになっていた。
「あの面接のときの悔しさはもう味わいたくない…」
そう思って仕事をするようになっていた。
取引先から紹介された今の会社の面接は、最初から部長クラスと社長が同席するもの
だったが、きちんと自分をアピールすることができて、翌日には内定の返事がもらえた。
「おい、A男。担当が替わってやりやすくなったと、B社の部長が喜んでいたぞ!」
と、課長が褒めてくれるのに「まだまだです」と笑顔で答えながら、
あのとき内定をもらわないでよかったと、A男は素直に思えるようになっていた。
(終わり ※以上はすべてフィクションです )